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discrepancy

「君と僕はよく似ていたよ。ただ違っていたのは、君は女で僕は男。君は感情的で僕は理論的。君はいつも足踏みで、僕は足踏みをできなかった」 「惹かれ合ったのはお互いが似ていたせいだけれど、別れるのは些細な違いが許せなくなったせい? 足踏みをしないあなたは別れを悲しむ暇もないけれど、私はいつまでもここに留まって泣き続けるのよ」 「悲しくなんてないはずさ。そう、お互いにね。僕はもう恋心を通り越してしまったし、君はいつまで経っても恋を始めなかった。悲しくなんてないはずさ」

inconsiderateness

ははは、と、この上なく乾いた笑い声をあげながら、どこへ向かうでもない足取りは幾何学模様を辿るようにふらついて、今にも何かへ突撃するように倒れ込みはしないか、そんな印象を誰にでも与えるようなものだった。もっとも、僕の身を案じるものは一人もいないし、僕の行く末を案じるものも一人もいない。僕は、本当の意味で孤独だった。

「簡単に諦めるなよ、きっと上手くいくから」 「自分が独りだなんて思わないで」 「きっと分かり合えると思うよ、君と僕は」

皆、何もかもが敬愛の対象だし、尊敬だってしている。恨み? そんなもの欠片もない。僕も彼も彼女も皆、生きているし死んでいく。愛している、愛している、愛している。彼ら全てに分け隔てのない幸せを、平和を、安泰を、穏やかさを。愛している、愛している、愛している。皆、穏やかに死ねれば良い。誰かに希望を与えて絶望を与えて、穏やかに死ねれば良い。

empty

何の悲しいことがあろうか 何の悲しいことがあろうか

あったものがなくなることや いたはずの人がいなくなることが そんな当たり前のことが 何の悲しいことがあろうか?

手に入らなかったもの 辿り着けなかった場所 答えられなかった問いかけ 思い出せない約束

あるべきものがあるべきところへ 消えるべきものが消えて 残るべきものが残る そんな当たり前のことが

だから、 何の悲しいことがあろうか?

cry, cry, cry

もう、涙を流して泣くことなんてないのだろう。多分思春期の終わり頃からずっとそう思い込んでいたのだけれど、その根拠のない思い込みは、他愛のない出来事に簡単に切り崩された。難しい話じゃない。簡単なことが、簡単な理由で起こっただけの話だ。別段、難しい話じゃない。

夜の温度はまだ下がる一方で、それは僕の頬にある涙の道筋を冷たく冷やした。そう、涙は液体だ。保温について言えば最低ランクだ。最低、だ。夜に涙を気付かされた僕は、乾きかけたその道筋にもう一度涙が流れるのを、溢れたばかりの涙は体温を伴っていて少しだけ温かいことを、そのことを少しだけ悲しく思い、少しだけ嬉しく思った。

流れるのは、きっと証だ。何の証かなんて、それはまた別の話なのだけれど。

love like loveless

指の隙間からこぼれ落ちるそれを、ただ僕は美しいとだけ思いながら、眺めていた。日の光か何かを反射してきらきらと輝くそれを、ただ何するでもなしに、呆然と眺めていた。美しいとだけ、思いながら。

あるいはそれは、恋に似ていなかったか。あるいはそれは、恋に似ていただろう。何かに狂うほど焦がれ、代わりの何かで良しとしなければ、それは恋に似ていただろう。

しかしそれは僕がそれと気付いたとき、つまり、指の隙間からこぼれ落ちるのが無限のことでないと気付いたとき、そのときには、もう手遅れであった。僕の手は僕を満足させられるほどそれを溜め込んではおけず、すぐにそれは、別れを惜しむように少しずつその量を減らして、やがてぱったりとなくなった。

まるでそれは、恋のようではなかったか。

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